著者:牧野圭祐 (著)
イラスト:かれい (イラスト)
出版社:ガガガ文庫
この作品は、コスモノート(宇宙飛行士)グラフティというキャッチコピーで紹介されていますがこの”コスモノート”とは旧ソ連邦時代の宇宙飛行士を意味するそうです。旧ソ連では宇宙飛行士の事をコスモノートって呼んでいたんですね。
冷戦時代に米ソ間で宇宙開発競争が行われていましたが、その中で事故で犠牲になった宇宙飛行士や人の代わりにチンパンジーやマネキンなんかが宇宙へ実験飛行したりとか、大国の威信をかけた開発競争の裏には国家の威信をかけた猛烈なプレッシャーとともに、無理を承知で人道的な事柄に目をつぶって計画を推し進めたというような影の部分もあったことはそんなに多くの人は知られていないようですが、この作品は、旧ソ連における宇宙開発の裏側を、実際のエピソードをオマージュしながら物語に取り入れているところが、宇宙マニアに人であればそれだけでも気になってしまう作品。
この作品は当時のソビエト連邦の宇宙開発をモデルに大国の威信とその裏であまり語られる事のなかった若干影をさすようなエピソードなどを実際の史実に基づけながらライトノベルとして描かれている所が特徴だと言えると思います。
マーキュリー計画やアポロ計画をモデルとした作品が多く目にする中で、旧ソ連をモデルにしたところが、ベールに包まれていた当時の開発計画における今見ると常軌を逸しているような実験や計画なんかは物語にしたら過酷で切ないカタルシスが得られるような作品になるのも納得です。
宇宙開発をテーマにした映画やアニメや小説が数多く出ているのは、人類がはじめて宇宙へ行く事が危険で大変で命がかかる事であることに対し、それでも未踏の地へ足を踏み入れてみたい、見てみたいという人の遺伝子に刻まれたホモサピエンスのミームだと言えるからでしょうね。
わずか数百年の間にアフリカ大陸から大陸全体に進出した人類は、環境適応能力を生かし温かいところから寒い所、摂取できる食物の違いなどを吸収し進出していったと言われています。時にはカヌーを作り星を頼りに航海術を駆使して原始的なカヌーでミクロネシアエリアの島の孤島までも進出していくのは凄いモチベーションだと思います。
「命」と「未踏の空間への憧れとのバランス」。古代に海を渡った人類はまさに命がけだったのかもしれませんし、ひょっとしたら流木にのってたまたま未開の島へたどり着いただけかもしれません。ただ、宇宙はまったく別格もの。技術の信頼性、数万にもおよび部品やパーツがきちんと働いているか?、そしてオペレーションする人。
魔法が存在するファンタジーな世界でない限り、こうしたすべての要素がかみ合って完璧に動いて、それでも命の危険を孕んでいるというのはある意味究極の冒険ロマンがそこにあると言えるでしょうね。
この作品は、旧ソ連に似た国で有人宇宙飛行を実現させるプロジェクトの裏でロケット実験飛行で人間の代わりに「吸血鬼の少女」を使う「ノスフェラトゥ計画」に纏わるエピソードから物語が始まります。
宇宙飛行士を目指す主人公の少年レフ・レプス中佐。彼は宇宙飛行士候補生から落第しかけていた時に、秘密都市「ライカ44」で極秘裏に行われていた「ノスフェラトゥ計画」で実験台に選ばれた吸血鬼の少女、イリナ・ルミネクスの監視係となります。
「私、誰も行ったことのない宇宙から月をみてみたいのー」
という純真な夢を語る少女に心を許して行くというのは必然な流れになりますよね。
彼が地上のサポート役ならず、監視役として失敗続きの実験を経ながらイリナちゃんは実験体として宇宙から無事帰還するミッションを成し遂げます。
実際、吸血鬼の少女が人類初の有人飛行を成しえた少女となったわけですが、その事実を歴史の史実に残したくないと思う上層部の不穏な動きが垣間見入れつつ物語の展開が動き出す感じ。
「人類初の宇宙飛行士は、吸血鬼の少女だったー」という実験成果を葬り去り、人間の宇宙飛行士の本格的な選抜が始まっていくー。
そんな事実を知らない主人公の少年レフ・レプスは、吸血鬼の少女イリナの監視の任を解かれ、彼女とも疎遠になっていきます。
でも彼は宇宙飛行士の夢を叶えるべく、宇宙飛行士候補生としてライバルと鎬を削るのですが、その陰で・・
「実験体が帰還したようです」
「……もう用済みだろう。廃棄処分を」
という運命の歯車が回り始める・・ってどうなるの?イリナちゃん!
と有人宇宙飛行を目指す人類の途方もないロマンと、そこで出会う少年と吸血鬼の少女、しかし、運命は残酷にも2人を切り離し、心寄せる少女をこの世から消そうとしている・・という、儚く、切ない物語の展開に目が離せなくなるハズです。
月とライカと吸血姫 (ガガガ文庫)
発売日:2016/12/25
あらすじ(Amazonより): 人類史上初の宇宙飛行士は、吸血鬼の少女だった――。 いまだ有人宇宙飛行が成功していなかった時代。 共和国の最高指導者は、ロケットで人間を軌道上に送り込む計画を発令。『連合王国よりも先に、人類を宇宙へ到達させよ!』と息巻いていた。 その裏では、共和国の雪原の果て、秘密都市<ライカ44>において、ロケットの実験飛行に人間の身代わりとして吸血鬼を使う『ノスフェラトゥ計画』が進行していた。とある事件をきっかけに、宇宙飛行士候補生<落第>を押されかけていたレフ・レプス中尉。彼は、ひょんなことから実験台に選ばれた吸血鬼の少女、イリナ・ルミネスクの監視係を命じられる。 厳しい訓練。失敗続きの実験。本当に人類は宇宙にたどり着けるのか。チームがそんな空気に包まれた。 「誰よりも先に、私は宇宙を旅するの。誰も行ったことのないあの宇宙から月を見てみたいの」 イリナの確かな想い。彼らの胸にあるのは、宇宙への純粋な憧れ。 上層部のエゴや時代の波に翻弄されながらも、命を懸けて遥か宇宙を目指す彼らがそこにはいた。宇宙に焦がれた青年と吸血鬼の少女が紡ぐ、宙と青春のコスモノーツグラフィティがここに。
月とライカと吸血姫 2 (ガガガ文庫 ま 5-5)
発売日:2017/4/18
あらすじ(Amazonより): 高度百キロメートルの宙から君を想う。 『ノスフェラトゥ計画』の一件を評価されたレフ・レプス中尉は、晴れて念願の宇宙飛行士候補生に復帰する運びとなった。それに合わせて吸血鬼の少女イリナ・ルミネスクを監視する任務からも解かれることになる。昼を生きるレフと夜を生きるイリナ。ふたりは同じ基地内でもすれ違ってしまう、そんな生活が続いていた。 イリナの様子を気にかけつつも、レフは自身の夢を叶えるために「人類史上初」をかけた宇宙飛行士選抜試験に挑み、優秀なライバル達と鎬を削る。 その一方で、不穏な空気がイリナの周りを包もうとしていた。 「実験体が帰還したようです」 「……もう用済みだろう。廃棄処分を」 回り始めた運命の歯車は、果たしてどこに行き着くのか――。 世界に渦巻く巨大なうねり。一枚岩ではない共和国政府。追いつけ追い越せと躍起になっている連合王国。いまだ人類が宇宙に行くことが奇跡だと思われていた時代。様々な思惑に翻弄されながらも、命を懸けて遥か宇宙を志すふたりがいた。宇宙に焦がれた青年と吸血鬼の少女が織りなす、宙と青春のコスモノーツグラフィティ第二幕。
しろ: 少女や少年の純真な夢や希望を追いかける姿にある種の感動を感じるという要素。彼・彼女達が目指す目標というが国家や権力の威信のためにねつ造されたものだったり、上部の意図に都合よく合わせられて消費冴えれる道具に過ぎないという残酷な現実側面。2つの対局の中で少年と少女が選択する未来はどうなるのか?思わず手に取ってみたくなる作品だと言えそうです。
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